明治十四年一月廿六日出火 浜町より写両国大火

作者小林清親
ArtistKOBAYASHI Kiyochika
TitleGreat Fire of Ryogoku January 26, 1891,
Sketched from Hama-cho
制作時期明治14年(1881)
技法・材質紙本木版
サイズ25.4cm×36.0cm
署名等画面外:明治14年1月26日出火浜町より写両国大火 小林清親 御届明治十四年 月 日 長谷川丁十九バンチ 出板人福田熊二良 画工小林清親
取得方法購入
取得年度平成12年度
所蔵品目録番号0837
作品解説明治14(1881)年1月26日深夜、午前1時30分。東京神田の一角、かつてはお玉が池のあった松枝町で、一件の火事が起こりました。その火は北西からの強風にあおられて周囲へと燃え広がり、明け方には火元から東にある両国橋のたもとへと達します。さらに午前9時には川を越えた本所・深川へと飛び火し、午後6時過ぎに鎮火するまでの間に隅田川両岸の42万㎡、1万戸余りが灰塵に帰しました。
 両国大火と呼ばれるこの大火災のさなか、その様子を水彩で克明に描き留めた人物がいます。「最後の浮世絵師」とも称される小林清親です。両国橋近くに暮らしていた清親は、火事のことを知ると写生帖を手に家を飛び出し、火の行方を追いながら方々を廻り、その姿を写していったといいます。そしてのちに、これらのスケッチをもとに数枚の版画が制作されました。
 図版はその一点。日本橋浜町から北側を望んだ光景です。画面右側には隅田川が広がり、奥には両国橋も遠望されます。河岸には、火の手を見守り立ちすくむ者や、荷物を抱え逃げ惑う人々が配され、火事場の臨場感を伝えます。左側の家屋は、板塀に囲まれ提灯が提げられる一方で西洋風のガス灯もかかげられており、江戸の情緒と明治の新風が混在する当時の雰囲気をしのばせます。
 しかしこの画面で何よりも目を引くのは、画面を斜めにおおう火と煙の表現でしょう。橋の両側に広がる街並みから天高く立ち上る火炎と黒煙。風に煽られ飛び散る火の粉。赤・橙・黒・灰といった色彩を重ねることで、業火の凄まじさが鮮烈に表されています。
 弘化4(1847)年に江戸の下級武士の子として生まれた小林清親は、幕末維新の混乱期を経て、明治8 (1875)年より浮世絵版画の絵師として活動をはじめました。この年の8月には、江戸から明治へと移り変わる街並みを、清新な光とともに表した「東京名所図」5図を手掛け、脚光を浴びます。輪郭線を廃し色面を丁寧に重ねることで、降り注ぐ陽光や微妙に色を変える空の様子を繊細に描き出した風景版画の数々。それらは「光線画」とも呼ばれ、明治14年にいたるまで90種以上が刊行される人気シリーズとなりました。
 清親の旺盛な取材精神と、「光線画」の斬新な表現。その二つを織り交ぜたこの作品は、両国大火の一場面を迫真的に伝えてきます。
(鎌田享「所蔵品から」『府中市美術館だより』第50号、2019年9月、府中市美術館)

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