公開解説 | 【極東書店カタログCOL-1079記載内容/リストNo.6 オリンピック招致活動のラストスパート、幻の1940年東京五輪招致のための豪華アルバム 東京市庁編『日本』西陣つづれ織り豪華版 1935年 東京刊 (Invitation to the International Olympic Committee), Tokyo Municipal Office, Japan. Tokyo, 1935. <R18-355>/Album. Oblong Folio, 240xl90cm, original string bound decorative cloth with Nishijin Fabric./本商品は1934年12月に東京へのオリンピック招致を目的として当時のIOC役員や近代オリンピックの創立者ピエール・ド・クーベルタン(Pierre de Coubertin: 1863- 1937)へ送付したといわれている、当時の東京市長牛塚虎太郎の自著による東京アピール文章を載せた西陣つづれ織りのアルバムです。その制作費は当時の価格で100円(現在の価値で数十万円相当)をかけて製作が行われ、日本人を除くIOC役員60人全員に配布されたといわれています。このアルバムないし写真集を用いて日本をアピールする戦術は、1932年のオリンピック候補都市に正式に立候補して以来、これまで一貫して取られてきていました。嘉納治五郎が東京のスポーツ施設や日本のスポーツ文化を紹介する1933年、1934年そして1935年に発行された「Tokyo: Sport Center of the Orient」をIOC総会の折に各国IOC役員に配布していたことは広く知られています。「Tokyo」がそのタイトルの通り、東京と日本におけるスポーツを中心とした内容です。それに対して、西陣織の本品は装丁と作りが豪華となっただけでなく、東京とスポーツというテーマに止まらず、桜、皇居、日本各地の名所と風景、日本の産業や習慣を紹介し、まさに日本とはいかなる国かという意欲を前面に押し出した内容となっています。ところで、本アルバムの配布が行われた時期は1935年2月に開催されるオスロでのIOC総会の直前でした。また開催都市として当初強力なライバルと見られていたローマがベニト・ムッソリーニ(Benito Mussolini: 1883-1945)と日本側のIOC委員副島道正とのIOC総会直前での会該で開催都市の辞退を表明したこともあり、オリンピック東京開催への期待が俄然盛り上がっていた時期でした。日本が1932年に1940年開催都市に立候補した時は、決してスタートが早かったわけでなく、むしろ出遅れていたといわれています。本商品は、日本の招致アピール戦略において、その招致活動の遅れを取り戻そうという、日本のスポーツに賭ける情熱とスポーツ競技開催の能力を示すアピールに始まり、日本そのものを知ってもらいたいという、招致活動のラストスパートであったのではないでしょうか。またあわせてローマの開催都市辞退によって、東京開催の実現が一気に高まった時代の熱気をも感じさせるものです。そういう意味で、本商品は希少性と豪華さの頂点というだけでなく、日本の1940年オリンピック招致活動の真剣の頂点を示す生きた証拠であったといえます。日本のオリンピックムーブメントの関わりを知る上で不可欠というえる本商品の購入を是非お勧めします。 参考文献:橋本一夫『幻の東京オリンピック』日本放送出版協会、1994年】 |
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