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石硯

分類県指定
種別無形文化財
所在地新城市
保持者・保持団体名倉利幸(五代 名倉鳳山)
指定年月日R7.8.5
詳細解説 鳳来寺参道における石硯(石製の硯)の生産は、遅くとも江戸時代には成立し、参詣者の土産物として盛んに作られたという。明治初期にいったん生産が衰退するが、1887(明治20)年頃に再興し、今日につながる鳳来寺硯の生産が始まったととらえられている。
 鳳来寺硯は、当地で産出する石材である金鳳石、鳳鳴石、煙巌石を用いて作られている。これら三種の原石は頁岩(堆積岩の一種)で、中央構造線に近い設楽層群の門谷層から産出する。制作工程は採石に始まり、石取り、平板作り、荒削り、縁立て・内彫り、磨き、仕上げの順に進行する。
 今日の「石硯」は、産地固有の石材と伝統的な制作技術を基に、意匠に工夫が加えられ、高度な芸術的表現を可能とする工芸技法として高く評価されるものである。
 名倉鳳山家は鳳鳴堂と号して、鳳来寺参道に石硯工房を構えてきた。鳳来寺硯制作の傍ら、三代鳳山は当地の石材研究、四代鳳山は和硯(国産硯)の研究に取り組んだ。四代鳳山は日本工芸会を中心とした作品制作を展開し、鳳来町無形文化財「鳳来寺硯制作」の保持者として認定された。
 名倉利幸(五代鳳山)は1953年、愛知県南設楽郡鳳来町(現新城市)生まれ。愛知県立旭丘高等学校美術科、東京藝術大学美術学部彫刻科で学んだ後に、父四代鳳山に師事した。2003年に五代鳳山を襲名。教育用硯にみられる定型的な実用硯とは異なる、天然石材の材質や模様に即した一品制作に取り組んでいる。
 作品は実用品としての機能を保ちつつ、造形要素に直線と曲線、曲面と平面を大胆に取り入れ、これらを連続的に構成して外部へ展開あるいは外部と遮断する、独自のスタイルを構成している。五代鳳山は石硯という道具を、精神性を有する器ないし彫刻へと昇華させ、和硯に対して造形芸術としての鑑賞性と芸術的価値を付与することに大きく貢献している。
 こうした取組は、我が国の伝統工芸界において高く評価されている。1981年以来日本伝統工芸展で入選を重ね、1997年には作品「無陵硯」が近現代和硯として初めて文化庁買い上げとなるなど、日本を代表する石硯作家である(五代鳳山は、「硯刻家」と称している)。
 「石硯」は芸術上の価値が高く、本県の工芸史上に特に重要な位置を占めている。名倉利幸(五代 名倉鳳山)は、当地で産出する天然石材を用いつつ、芸術性の高い作品づくりを展開している。こうしたことから、「石硯」を愛知県指定無形文化財(工芸技術)として指定し、名倉利幸(五代 名倉鳳山)をその保持者として認定する。

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