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有線七宝

分類県指定
種別無形文化財
所在地瀬戸市
保持者・保持団体柴田明
指定年月日R7.8.5
詳細解説 七宝は、一般には金属製の素地に釉薬を焼き付けたものである。今日につながる近代七宝は、江戸時代後期に尾張国服部村(現名古屋市中川区)の梶常吉が考案した有線七宝に始まる。梶の七宝技術は遠島村(現あま市)を中心に広がり、ついで名古屋市域にも進出した。当地で生産される伝統的な七宝製品は現在、尾張七宝と呼ばれている。
 尾張七宝は、金属素地に由来する滑らかな曲面と輪郭、エッジが表現された器体に、きめ細やかな模様の輪郭と色彩が展開し、輝きのある銀線と光沢のある釉薬が調和して、独特の造形美を構成している。制作工程は、図案、素地作り、下絵描き、模様付け(植線)、釉薬差し、焼成、研磨、飾付けの順に進行する。
 今日の「有線七宝」は伝統的な有線七宝の植線や釉薬差しの技術等を基に、意匠や釉薬に工夫が加えられ、高度な芸術的表現を可能とする工芸技法として高く評価されるものである。
 伝統的工芸品においては各工程に専門職人がいて、分業体制により規格的な製品生産が行われてきた。これに対し、伝統工芸においては一人の作家が全工程を担い、伝統的な技術をもとに独創的な作品制作に取り組んでいる。伝統工芸系の現代七宝作家の第一人者が、柴田明氏である。
 柴田明氏は1942年、三重県四日市市生まれ。愛知県立瀬戸窯業高等学校を卒業後、株式会社安藤七宝店(名古屋市)に入社し、当地の伝統的な七宝作りに取り組んできた。安藤七宝店において工場製品の生産に従事する一方、個人作家としての作品制作も展開している。
 伝統的工芸品としての尾張七宝では、花瓶や皿の定型的な器形と花鳥模様、赤(エンジ)または青(紺)色の透明釉を中心とした、伝統的な意匠を基調としている。これに対し柴田氏は、複数の曲面や平面を組み合わせて構成した現代的な器形、器面全体を覆うように展開する独自の連続的な抽象模様、難度の高い白色系不透明釉の多用が、作風の特徴である。伝統的な尾張七宝の技法をベースとしつつ、器形、模様、釉薬において創意工夫を凝らし、現代七宝の新たな境地を切り拓いている。
 こうした独自の取組は、我が国の伝統工芸界において高く評価されている。1970年以来日本伝統工芸展に50回以上入選し、審査委員も務める日本を代表する七宝作家である。近年は公募展へ毎年招待出品するとともに、勤務する安藤七宝店では後進の指導にもあたり、伝統工芸の普及振興や後継者育成に寄与している。
 「有線七宝」は芸術上の価値が高く、本県の工芸史上に特に重要な位置を占めている。柴田明氏は、有線七宝を中心とした伝統的な尾張七宝技術を継承しつつ、芸術性の高い作品づくりを展開している。こうしたことから、「有線七宝」を愛知県指定無形文化財(工芸技術)として指定し、柴田明氏をその保持者として認定する。

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