/5

記憶の断片(II)

作家川口淳 Kawaguchi Jun
制作年1993年
寸法200.0×100.0×15.0cm
員数1
解説 多彩な上絵を施した器類や立体、壁体の制作で知られる川口淳は、1988年より、色絵磁器による一連の造形作品群「ゾエア(Zoea)」のシリーズを手がけてきた。
 「ゾエア」とは海の中で一個の生物として変態を繰り返しながら成体となる甲殻類の幼生のことである。川口は「辿り着くべきところが何であるのかわからぬまま変態を繰り返し、まるで鏡の室の中のように未来の中に過去があり、過去の中に未来がある」と、ゾエアという存在そのものに、自己を仮託し、「過去と未来の記憶を求めて形にする」と言う。このような想念を川口は色絵磁器によって作品化する。
 本作品は、川口にとって固有の意味を持つテーマ「ゾエア」を最も十全に表現した「記憶の断片」(6点の連作)のうちの1点である。6点の「記憶の断片」は、1992年に滋賀県立陶芸の森で行われたアーティスト イン レジデンスにおいて制作されたものである。磁器部分は、施釉された素焼きのピースが、板状の土台の上に一つ一つ載せられて構成されている。川口はピースの制作、施釉、配置、上絵付けといった作業プロセスの中に、その場に居合わせた不特定多数の他者の手を介在させることによって生じる偶然性を織り込んでいる。 また従来、単体としての「ゾエア」を手がけてきた彼が、本作品の制作にあたり、アルミパネルを共通の背景として6体の「ゾエア」の群像に取り組んだのは、「個々が独立していながら自他の境界が曖昧な存在」を「空間的に曖昧な場所」に提示するためであった。 川口は、この6点を自らのテーマである「ゾエア」の集大成とするという明確な意図の下に制作しており、これら6点に限っては「ゾエア」ではなく「記憶の断片」と題している。

PageTop