テキスト内容 | 平地や山野に広く生える、多種多様な植物の総称。万葉集では、草枕、月草、夕影草、恋草、醜草、三枝、芝草、春草、夏草、秋草、若草、下草、壁草、しり草、青草、目覚まし草、手向け草、腋草、古草、新草、草結びなど、草に関する多様な名付けが見られる。草は生活のさまざまな場面で現れるが、その中でも、「草枕旅の衣の紐解けぬ思ほゆるかもこの年頃は」(12・3146)の「草枕」の語は、当時の旅が野宿となることが多く、草を枕にした実感がこうした枕詞を生んだものと思われる。また、草の有用性は大きく「新室の壁草刈りにいましたまはね 草のごと寄り合う少女は君がまにまに」(11・2351)のように、新築の壁は草を素材としている。この草は茅や薄のような背の高いものであろう。また、「この岡に草刈る童子然な刈りそね ありつつも君が来まさばみ馬草にせむ」(7・1291)では、ご主人の馬の飼い葉を刈るという。さらに若草・若菜は春の重要な食材であるとともに、神事の執り行われる草であった。そうした神事的な面としては、「近江の海みとは八十ありいづくにか君が船果て草結びけむ」(7-1169)のように、船旅の安全を祈るのに草結びをすることが見える。草は万葉びとの生活に最も近く、そこには生活のみならず、若菜摘みや手向けや草結びのような信仰的性格も見られるのである。 |
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