テキスト内容 | 早稲の穂で作った、髪や頭部の装飾具。万葉集に1例(8-1625)のみ登場する。この歌は、1首前の「我が業れる早稲田の穂立作りたるかづらそ見つつ偲はせ我が背」(8-1624)に応じたもので、「わさほ」は、その「早稲田の穂」の言い換えである。「かづら」は、5月には菖蒲や花橘を玉に貫いてかづらにする(3-423)という表現に見られるように、菖蒲や橘といった植物の実などを緒に通して、頭髪に刺したり輪を作って頭に巻いたりする装飾具である。髪に飾るかづらは櫛と同様、霊妙で神聖なものと考えられていたようで、記の黄泉国訪問譚でイザナキがかづらを投げてイザナミの追撃を阻む話の他、尾張国の風土記逸文には、榊の枝をよじって作ったかづらを神の座所を知るためにうけいの道具として用いたという話も見える。また、『霊異記』には、雷を捉えに行く際に緋のかづらを額に着けたという話(上巻第1話)もある。持統紀元年3月甲申条には、天武天皇の殯宮に進上した華縵(はなかづら)を御蔭(みかげ)というとの記述があり、かづらを「かげ(冠)」ともいったことが知られる。和歌において、「人はよし思ひ止むとも玉かづら影に見えつつ忘ら得ぬかも」(2-149)の如く、かづらを「かげ」の語にかけて使う例が存するのはそのためである。万葉集には他に、「はねかづら」(4-705、706、他2首)や「山かづら」(16-3573、他2首)を詠んだ歌があるが、「はねかづら」はすべて「今する妹」に掛けて用いられていることから、特に少女が成人戒の前につけたものとも成人戒を受けたしるしとして冠ったものともいわれる。 |
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