テキスト内容 | ①名前。物事、および個人・民族の名をいう。②名声・噂・評判をいう。「名」に、尊敬を表す接頭語「御」がついた形である。「名」は、たんなる名称ではなく、いわゆる言霊信仰によって実体そのものとして意識されていたので、「御名」は、神々しいもの、尊いものに用いられた。①は、『上宮聖徳法王帝説』に「斑鳩の富雄川の絶えばこそわが大君の御奈忘らえめ」とある。万葉集では、明日香皇女の殯宮の時に、「御名にかかせる 明日香川」(2-196)、「我が大君の御名忘れせぬ〈一に云ふ、「御名忘らえぬ」〉」(2-198)と人麻呂は歌っている。言霊意識を持っている人麻呂は、明日香川に明日香皇女の形見と見たのである。また「高円の尾の上の宮は荒れぬとも立たしし君の御名忘れめや」(20-4507)ともみえ、人に対する場合は、忘れることなどできない尊い故人に限られる。自然に対しては、「神ながら み名に帯ばせる 白雲の 千重を押し別け 天そそり 高き立山」(17-4003)と歌っている。立山に対して、神さながらにタチという名を負い持つという、神の性格を認めた歌である。ただごとではない現実に、神秘的な力を認め、畏怖する思いが、「名」ではなく「御名」を用いた。 |
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