テキスト内容 | 地を踏み、地霊を鎮める娘。万葉集中1例。巻11の旋頭歌の中で見られる。新築を祝う歌で、新築の家の地を踏み、地霊を鎮める娘が持っている踊りに付けている手玉をならしている。その玉のように、輝いているお方を奥にどうぞと(取り次ぎの者よ)申せという歌(11-2352)の中でのことば。現代の地鎮祭を髣髴とさせる。「踏み鎮む」実体や意味は、断片化された資料から創造される。新築の家に関して顕宗紀では、天皇が新築の家を寿いで、家の堅く太い柱は、その家の主人の心の安定を示すとして「御心の鎮(しづまり)なり」と寿詞(ほきうた)を述べている。これを古義は、新築の柱を踏み鎮めることを述べているとしている。また、允恭紀では、新築の宮殿で宴を行った際に、天皇が琴を弾き、皇后が舞を演じたことが記されている。足踏みについては、のちの歌舞で「乱拍子」「反閇(はんばい)」といって、つま先を交互に振りながら足踏みする所作がある。これは、地の悪気を退散させ、代わりに正気を将来させる呪術である。記の天の岩戸神話では、天鈿女命が岩屋の前に桶を伏せて、それをドラムのように「踏みとどろこし」て、神懸かりしたことが語られている。このように踏み鎮む子は、呪力を発生させる女性が地の悪霊を鎮め、正霊を活性化させる行いと考えられる。新築とは直接かかわらないが、宮廷で正月に行われるようになった「踏歌」との関係も指摘されている。また後の『続日本紀』には、その踏歌が宮廷で行われた歌垣に取り入れ際の歌「少女(をとめ)らに 男立ち添ひ 踏み平らす 西の都は 万世の宮」が残されている(称徳天皇 宝亀元年3月)。三隅治雄『日本舞踏史の研究』(東京堂出版)。荻美津夫『日本古代音楽史』(吉川弘文館)。藤原茂樹「日本の踏歌の黎明-飛鳥時代-」『神戸 山手女子短期大学紀要』39号。 |
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