テキスト内容 | 『文選』巻19の高唐賦に見える神仙峡、巫山。巫山の峡に昼寝をしていた楚王が夢に婦人に会ったという物語である。峡は山に挟まれた谷の意である。万葉集に次のような話がある。私はたまたま松浦の地に行き玉島の川の淵で遊覧したところ、魚を釣っている娘たちに出逢った。美しく、気品のある姿はこの世のものとは思えず、「どこの里の娘さんですか。仙女ではありませんか」と尋ねた。娘たちは「わたしたちは漁師の子で、名のるほどのものではありません。ただ生まれつき水に親しみ、心の中で山を楽しんでおります。ある時は、洛水の浜に臨んで 魚の身の上を羨むこともあり、またある時は、巫山の神仙峡に横たわって、空しく煙霞を眺めることもあります。今思いがけず高貴なあなた様にお逢いできました。嬉しさを押さえることができず、心の内を述べた次第です。これから後は、どうして共白髪の契りを結ばずにいられましょうか」と答えた。それに対して私は「謹んで仰せに従いましょう」と応じた。だが、日は山の西に落ち、黒駒は帰りを急いでいるので、この地を去ったとある(5-853、854)。万葉集では松浦川を洛水にたとえ、その娘子を巫山の神女にたとえたのである。 |
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