テキスト内容 | 言う。宣言する。『時代別国語大辞典』上代編には「ツグ・イフ・カタル・トフなどの語とは違って、ノルは、本来呪力を持った発言であったらしい。祝詞や宣命におけるその用例の多さは、十分この語の意味の重要さをうかがわせる」と説明する。『延喜式』祝詞「六月晦大祓」に「天津祝詞《乃》太祝詞事《乎》宣《礼》。如此《久》乃良《波》」と見える。記ではノルに「告」「詔」字を充てることが多いが、『新全集古事記』頭注は「『告』は、上位者から下位者への発言の引用に用いられる。『詔』も同じだが、『詔』は重々しい場面に、『告』」は、親近感をもったくつろぎの場面に用いられる」と使い分けを説明する。万葉集では仮名書き例のほか「告」「「謂」「詔」「言」の字をあてる。夥しい用例を概観すれば「我が背子が その名告らじと」(11-2531)「伏して死ぬとも 汝が名は告らじ」(11-2700)のように「名」にかかわってそれを他者に告白しないというものが多く、その逆に「み越路の 手向に立ちて 妹が名告りつ」(15-3730)のように本来は憚るべき妹の名を告げたとうたうものもある。「名」に関する禁忌がこれらの背後に看取されるとともに、和歌に用いられるノルが「名告り」に限定される傾向にあることがうかがえる。「海人娘子ども 汝が名告らさね」(9-1726)は名を問うことで求愛を示し、「いちしろく 我が名は告りつ 妻と頼ませ」(11-2497)は求婚を受け入れて名を告げたというもの。また、「家問へば 家をも告らず 名を問へど 名だにも告らず」(13-3336)のようにいわゆる行路死人歌にも名告りがうたわれることがある。「否と言へど 語れ語れと 詔らせこそ」(2-237)は天皇の発することばをいい、「大舟の 津守が占に 告らむとは」(2-109)「夕占の 我に告らく」(13-3318)などは占を通じて神のことばを聞くことをいう。履中記歌謡「直には告らず当芸麻道を告る」(77)も履中天皇に語った女人のことばを神託のごとくにとらえている例。 |
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