テキスト内容 | ①年月。1年。②年齢。③穀物。とくに稲。また、その作柄。助数詞として用いられる場合は、5年を「伊都等世」(5-880)と表記するようにトセと訓む。①は、万葉集に「年月」(4-579)のほか、「年離る」(2-211)、「年に装ふ」(10-2058)、「年の緒」(10-2089)、「年きはる」(11-2398)などとあり、一般には「年」は時の単位として使用される。「年」を用いた表現では、「年代はるまで」(2-180)、「年反るまで」(17-3979)、「年行き反り」(18-4116)などといった類型的な表現がみられる。②は、「百年」(4-764)、「八年児」(9-1809)とあり、紀の神代上に「此の児年三歳に満つる」とあるように、年齢を示す場合がある。③は、待ち望んだ雨が降ってきたことから「年は栄えむ」(18-4124)と詠まれ、この「年」は五穀、とりわけ稲の稔りを表わすと考えられる。また、年初にあたって降る雪は「豊の年」のしるしとなるとうたわれる(17-3925)。これも、「年」が稲の稔りの意として用いられている。この歌の背景には、大雪を豊年の祥瑞とする中国の知識があるとされ、『代匠記』は『文選』の謝恵連の雪賦にみえる「尺に盈(み)つるときは則ち瑞を豊年に呈(あら)はし」などを引用する。このように年が稲の稔りを意味するのは、『延喜式』にみえる祈年祭の祝詞が「としごひのまつり」と称して、その内容は農作物の豊穣を願うことからも理解できる。観智院本『名義抄』をみると、「稔」に「ミノル」とともに「トシ」という訓みが付されている。これは、古くは穀物がミノルことが目安となってトシ、すなわち1年の時間を認識したことを推測させる。すなわち、稲作を中心とした農耕生活では稲作の1周期を1年としたわけで、「年」を稲の稔りの意で用いるのは原義的用法とみてよい。年月の意は収穫の意から転じて生じたものといえる。 |
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