テキスト内容 | 柘はクワ科で「つま」ともいう。養蚕のために植える山桑や自生の野桑をいう。落葉高本で花は4月から6月に咲き、赤か黒い紫色の実をつける。仙柘枝の歌(3-385)の左注に「柘枝伝」とあり、その内容は明らかではないが、吉野に伝わる柘枝仙媛伝説なるものがあったことを推測させる。万葉集の他にも、『懐風藻』の藤原不比等の漢詩「吉野に遊ぶ」に「柘媛」が詠み込まれていたり、『続日本後紀』所載の長歌などにもみえ、吉野の川に梁を設けて魚を取っていた男「味稲」が、その梁に柘の枝が掛かったので手に取ると美女に変わり、「味稲」はその美女と同棲したが、後に夫を残して昇天したという天の羽衣説話の型をもつものであったかと想像される。この伝説を踏まえた、柘枝仙媛が化した「柘の小枝」(3-389)を梁を使わないで取れないだろうかと詠んだ歌や、若宮年魚麻呂の、昔柘枝仙媛を得た味稲がいなかったならば、今もここに「柘之枝」(3-387)があって媛を私が手に入れられたろうにと詠んだ歌がある。一方、クスノキ科の常緑高木のタブノキを「つまま」と詠んでいる歌が万葉集に1例ある。大伴家持が国守として越中国に在任中、国府近くの海辺で詠んだ歌にあり、磯の岩の上に根をはっている「都萬麻」(19-4159)は大きな老木となっていて長い歳月を感じさせ、神々しいまでの姿であるという感慨を詠んでいる。 |
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