テキスト内容 | ①玉を貫く糸状の繊維。②玉を糸状の繊維で貫いたもの。③絶ゆ、乱る、長し、継ぐ、現し心などにかかる枕詞。④短いことの比喩。①②の玉は魂と同根の語で、魂を表象するものと観じられた。物体としては鉱物の宝玉などをさすが、これに穴を穿ち糸状の緒を通す。玉の緒を揺らすと玉が触れあい音を立て、霊威が発動すると考えられた。初子の玉箒の揺れる玉の緒を詠む大伴家持の歌(20-4493)や、イザナキノミコトが首飾りの玉の緒を音もさやかに取り揺すってアマテラス大御神に賜い、高天原統治を事依さす場面(記)には、玉の緒の揺れに呪的霊威をみる意識が表れている。玉の緒は身につける際は首や手足にかけた。垂仁記には、后のサホビメが天皇の軍に捕えられまいと、玉の緒を腐らせて三重に手に巻き、力士がサホビメの手をつかむと玉の緒が絶えて逃れたという叙述がある。②の枕詞的用法は用例の7割を占める。「玉の緒の」の語形で用いられ、①のように玉を連ねて通す形状から「長し」にかかり、緒が切れたり綻んだりすることから「絶ゆ」「乱る」「継ぐ」にかかる。また、生命の意味から「現し心」にかかると考えられる。③は「玉の緒ばかり」の語形で表れるが、緒にも命にも限りがあることから生じた語義かと思われる。万葉集の「玉の緒」の例の多くが恋情に関わって用いられる。たとえば、玉の緒は通常は2本を縒り合せたものらしく、片糸や片緒に縒ったものは弱い意の表現があり、恋に思い乱れる心を歌う(11-2791、12-3081)。また玉の緒を結ぶことで再会を期したり(4-763)、二人の固い絆に譬えたり(7-1324)、玉の緒を括り寄せることを別れずにいることの比喩的表現としたり(11-2790)する例がある。他にも生命の比喩や魂への連想を指摘できる例があり、玉の緒を命や心に結びつくものとして捉える意識が見てとれる。 |
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