テキスト内容 | ツル目ツル科の鳥。長い脚と首とまっすぐな嘴が特徴。家族単位で行動し、水辺等を歩いて餌をあさる。万葉仮名では、多津、多頭、多豆、多都、鶴、鵠などと表記されている。「鵠」と表記するのは「八十の湊に鵠に鳴く」(3-273)である。『代匠記』が鶴と通用することを、『万葉集訓義弁証』(上)が中国でも鶴と鵠が通用することを説いた。『古事記伝』も上代では鶴も鵠も鸛もタヅと呼ぶとした。従ってタヅを以て、詠まれた季節の根拠にするには慎重を要する。「鶴」と表記されたものをもタヅと読むのは、「求食(あさ)る蘆鶴のあな多豆多頭(たづたづ)し友無しにして」(4-575)とあって、「たづ」で「たづたづし」と続けなければ意味をなさないので明らかである。鳥の形が詠まれることはないが、色を捉えて「白鶴」(6-1064)と歌うものはある。「旅人の宿りせむ野に霜降らばわが子羽ぐくめ」(9-1791)や「八十の湊に鵠に鳴く」(3-273)、「朝雲に多頭は乱れ」(3-324)は家族単位で群れる習性を見事に把握している。「磯」(7-1198)、「川瀬」(8-1545)、「田の面」(14-3523)、「潮干の潟」(15-3595)、「浦」(15-3642)、「江」(15-3654)、「蘆辺」(20-4400)など鶴が餌をあさる水辺が詠われている。場を重んじて「葦鶴」(11-2768)と詠まれることもある。また、タヅは「年魚市潟潮干にけらし鶴鳴き渡る」(3-271)のごとく鳴き声を歌われることも多い。この歌の場合は餌を求めてであるが、「多頭が音の悲しき宵は国辺し思ほゆ」(20-4399)や「君に恋ひいたもすべなみ葦鶴の哭のみし泣かゆ」(3-456)と悲しげな鳴き声としても詠まれ、「闇の夜に鳴くなる鶴」(4-592)の哀切感は深い。タヅのイメージが鳴き声に繋がるので「の袖つぐ夜の暁は川瀬の鶴は鳴かずともよし」(8-1545)も強い願いとなる。単に飛翔する姿も「鶴翔る見ゆ」(7-1199)などと歌われている。祝祭的な空間で亀と対にして長寿を祝う代名詞とはまだなっていない。 |
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