テキスト内容 | ①心を鎮めること。②胎児の出産を停止すること。①は神功皇后の鎮懐石の歌で、「韓国を向け平げて御心を鎮め給ふと」(5-813)と歌われている。したがって、ここからは韓国を征討するために、心を鎮める事を「鎮懐」としたと考えられる。②は、記によれば、新羅遠征が未だ終わらぬうちに神功皇后の身ごもっている御子が生まれそうになったので、その御腹を鎮めようとして石を御裳の腰に纏いたとする記事がある。また、①の序に「新羅の国を征伐けたまひし時に此の両つの石を用ちて、御袖の中に挿し着みて鎮懐と為たまひき」とあり、胎児の出産を遅らせる石がみえる。鎮懐石の伝説については、この他にも紀の「時に適皇后の開胎に当たれり」や「新羅を伐ち給はむとして、軍を閲たまひし際、懐娠やヽ動きき」(『釈日本紀』所引「筑紫風土記」)、「新羅を討伐ち給はむとして、この村に到り給ひしに、御見姙ませるが」(筑前国風土記)、「三韓に入り給はんとしき。時に、既に産月に臨みき」(『太宰官内志』所引筑前国風土記)といった記事があり、記と同様の内容であることから、万葉集の場合もやはり胎児の出産を遅らせるといった伝承があったといえる。このような伝承から、古代、石を身体に付着させることによって特別な呪力を得ると考えられた民俗のあったことがうかがえる。 |
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