テキスト内容 | 妨げられる。都合が悪い。「サフ」(下二段動詞)に対する四段自動詞。名詞形は、サハリ。万葉集では、大伴池主が大伴家持に贈った歌(17-3973)に、「大君のご命令を謹んで受け、山野を妨げとせず、踏み越え」とあり、障害があるにもかかわらず、乗り越えることが歌われ、永遠に存在する強大な自然が人間にとっての障害物として詠まれている。「障り多み」を導く序となっている「湊入りの葦別け小舟」(11-2745、12-2998)があり、繁茂する葦が障害物として詠まれている。また、「障る」「障ふ」「障り」の多くは、相聞歌で詠まれている。「千度も妨げられているので、後でお逢いしましょう」(4-699)のように、恋における障害が「障る」と表現されている。恋における障害には、いくつかの種類がある。坂上郎女の怨恨歌(4-619)は、「愛してくれたあなたを私から引き離したのは、神なのだろうか。人が二人の恋路を妨げているのだろうか。」と歌っている。ここでの恋の障害は、人や神である。母親が恋の「障り」となる歌(11-2517)もある。女性の母親が恋の障害となると、その恋は実らないことを歌っているので、古代の婚姻における、女性の母親の意向が強さを物語っている。「普通なら恋の妨げとなる人の噂を気にはしていない」(12-2886)と歌うことで、かえって自分の思いの強さを歌う歌もある。人間が移動などの行動をする際に障害となるのは、磐石な自然物であった。しかし、恋という人間の心が動く問題にあって障害となるのは、人間の思いや行動そのものだったのである。 |
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