テキスト内容 | 身を包むものの総称。動物の場合は、皮膚・殻・繭の類にも用い(「夏虫の蛾(ひむし)の虚呂望(ころも)」仁徳紀)、人間であれば、着物・衣服のことを指す。上代では、上着を指すキヌに対し、下着を意味することが多いようである。万葉集では、麻衣・韓衣・斑の衣・塩焼き衣などが多く詠まれている。常陸国風土記に「衣袖漬(ころもでひたち)の国」と、倭武天皇が御衣の袖を泉に垂らしたという故事からくる地名起源説話がある。衣服の袖を指す衣手は、万葉集でも多く用いられており、「私の衣手にあなたを大切に留めておきましょう」(4-708)とあるように、人の魂が宿るものとして神聖視されていた。また、身体に密着する下衣(下着)は、狭野弟上娘子が中臣宅守に贈った歌(15-3751)に、「下衣を再び逢う日まで持っていて下さい」とあり、再会を願って下着を贈る習俗があった。大伴家持が坂上大嬢に贈った歌(4-747)からは、女性から贈られた形見の下衣を、再び逢う日まで身につけていようとしたことや、遣新羅使人の歌(15-3585)からも、衣の紐を解かないことで、旅中の操を守る約束としたことも分かる。女性の愛情が込められた衣は、心変わりすることなく再会を約束する呪具の役割を果たすものでもあった。 |
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