テキスト内容 | 無事に、平穏に、の意。「言」は、「言葉」の意であり、「幸く」は、旅立ちなどの別れに際して用いられることが多い。「言幸く」は、言葉の力によって無事に、という意味であろう。万葉集の巻13の柿本人麻呂歌集に「言幸くま幸くませと」(13-3253)とあるが、他に用例はない。歌の内容は、「葦原の瑞穂の国は、神意のままに言挙げをしない国です。しかし私は言挙げをします。言葉によって祝福がもたらされ、無事で、平穏で行ってらっしゃい。差し障りなく幸福でいらっしゃったら、荒い磯の波のように後でも会えるだろうと、幾重にも寄り来る波のように、私は繰り返し言挙げをします」というものであり、遣唐使あるいは、地方官として遠くへ旅立つ者へ贈った歌と考えられている。多くの危険を伴う船旅にあって、今後の航海がつつがなく無事であることを祈る歌なのである。「言幸く」の「こと」とは、「言葉」の意であり、「言幸く」は、「言葉」の力によって、今後の「事」(船旅)に幸いをもたらしたいとの思いが込められている。また、この歌には、「言挙げ」(言葉を言い立てる)という表現が再三用いられている。言葉が未来影響を与える、すなわち運命を左右し得るといった、言葉の呪力を認識した「言霊」の観念と深く関わっている歌である。非常に危険な船旅に際しての、出立の儀式で歌われた可能性のある歌であり、それゆえ、「言幸く」や「言挙げ」といった、航路の安全を祈る言葉の力が重要視されたのであろう。 |
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