テキスト内容 | 草や草根を結ぶこと。旅路や将来の平安を祈って国郡などの国の境で手向けをして地霊を鎮め、草や木の枝を結ぶ風習があった。行幸の際のものであり、そこで「岡の草根を いざ結びてな」(1-10)は、斉明天皇行幸の折りに、安全を言祝いだものである。『沢瀉注釈』が「人間よりも草木に霊力があると考へるのが上代人の素朴な信仰であつた」と述べるように、この歌は当時の人々の信仰の有り様を垣間見せるものである。また、「君が舟泊て 草結びけむ」(7-1169)は、『略解』では旅先の安全を祈る行為として草を結んでいるとしているが、文脈的には「草廬を結ぶ意」(『釈注』)とするのがよい。「草結ぶ月吹き解くなまたかへり見む」(12-3056)の「草結ぶ」は、『代匠記(精)』では自分の来たことを気づかせるために結んだとし、『沢瀉注釈』ではさらに二人の仲が成就することを祈る気持ちも込めているとする。この歌も、草に対する霊力を認めているのである。「秋草の 結びし紐」(8-1612)は、「秋草」が「結ぶ」の枕詞になっている。「秋草の結ぶ」は、まじないの一種で、昔結んだ約束を示唆している。この歌は、「草を結ぶ」行為を通して、昔誓った約束を夫に先立たれた今も守り続けていることを詠んでいる。 |
---|