テキスト内容 | 木本植物のこと。草(草本植物)に対応する語。身長を基準にして、高木(喬木)と低木(灌木)に区別することもある。古来、建築・生活道具などの用材や食用・薬用など、人間の生活と密接に関わってきた。そのため植生による文化形態の違いが見出され、それに基づいた分類も可能である。世界の中心軸としての宇宙樹(世界樹)の観念や、生命と豊饒の象徴としての生命の木など、洋の東西を問わず人類のあらゆる時代・地方にわたってシンボル化されてもいる。記紀神話におけるイザナキ・イザナミ両神が「天の御柱」を中心に廻り国土と神を生む挿話も、樹と婚姻・出産のイメージとが結びついた大樹信仰の一形態として理解できる。また、神木として祭祀に関わるものも多い。記紀神代巻の岩戸隠の挿話中には、「賢木(さかき)」を根こじにして枝に勾玉・鏡・布をかけて神事を行ったという記述もみえる。ここでいう「さかき」とは、現在のツバキ科の常緑高木である「榊」と同一であるという説や、神事に関わる常緑樹の総称で特定の樹木名ではないとする説、龍眼などの別の植物を指したという説など諸説がある。木は代表的な依代でもある。たとえば記にみえる「高木神」は、高木に神が降臨するという祭祀の形態から発想された神名ではないかとされている。景行記では、照葉樹であるクマカシの葉を髪に挿し、その生命力を得る共感呪術がうたわれている(歌謡31)。記上巻には「木俣神(きまたのかみ)」の神名もみえ、幹が中間から枝分かれするなど異形の樹木を神聖視したことに基づくと考えられている。神代紀巻・常陸国風土記・大祓祝詞などには「草木が言語(ものいう)う時」との表現があり、人間を脅かすものと考えられていたようで、根底にアニミズム的な樹木への信仰を窺うことができる。一方、万葉集では「言問はぬ木」(4-773など)との表現がなされ、人間と対比されつつものを言わない物の代名詞となっている。 |
---|