テキスト内容 | 神である女性。集中1例。虫麻呂歌集の浦島伝説を詠んだ「詠水江浦嶋子一首」(7-1740)に「海神(わたつみ)の 神の娘子」として登場する、後のいわゆる乙姫にあたる。原文は「神之女」で、「女」は神田本『万葉集』では、「むすめ」と訓まれている。これを受け『全釈』は、『本朝神仙伝』所収の「浦島子伝」に父母兄弟がいるという記述や、『続浦島子伝記』に、同様な記述があることや、浦島伝説の起源と思われる記の山幸海幸神話に豊玉姫の父が説話の大きな役割を果たしていることから、「女」は「むすめ」と訓むべきだとする。つまり、海神の子である女性を意味するとした。『沢瀉注釈』では、集中「女」を「むすめ」と訓む例がないこと、同様に「をとめ」を「女」と一字書きした例がないこと、「女(をみな)にあれば」(3-419)「東女(あづまをみな)」(4-521)の例もあることから、「をみな」と訓み、神である女性を意味するとした。『全注』では、記のイザナキの唱えごと「あなにやし、えをとめを」の例から、結婚の対象としての女性を言う古語で、神話・伝説上の女性を呼ぶ語として「をみな」よりも「をとめ」がふさわしいとしている。『新全集』では、雄略紀の古訓によって「をとめ」と訓むとしている。この雄略紀(22年秋7月の条)では、水江浦島子が舟に乗り釣りをしていたところ、ついに大亀を得、それがたちまち「女(をみな)」に変化したと書かれる。丹後国風土記逸文でも同様に亀が「婦人(をみな)」となったとされ、風土記の物語の展開の中では「女娘(をとめ)」と繰り返し、1人の女性として語られる。浦島が、箱を開ける直前に、おんなを思う場面で、「神女(かみのをとめ)」と記されている。つまり、物語の客観的な記述の中で、おんなが神仙世界の「神」であることが強調されるときに、「神の娘子」として登場する。三浦佑之『浦島太郎の文学史』(五柳書院)。 |
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