テキスト内容 | 釜処。へっつい。釜を用いて火を焚き、物を煮炊きをする場所。万葉集には、山上憶良「貧窮問答歌」(5-892)に1例のみ。庶民の窮状を訴える同歌には「かまどには 火気(ほけ)吹き立てず」とあり、竈には炊煙を立てることもできず、米を蒸すための甑には蜘蛛の巣がかかり、飯を炊くことを忘れてしまうほどに飢えた姿が描かれている。言い換えれば、常に竈に火が点されて多くの炊煙が立ちのぼることは、庶民の生活における豊潤・安楽を表す事象であり、国家の繁栄状態をも示すことにつながる。舒明天皇御製歌では香具山における国見に際し「国原は煙立ち立つ」と詠んで、炊煙の様子から人民の豊かさを知り、さらなる五穀豊穣を予祝している(1-2)。当該語は記紀には使用されていないが、仁徳記には天皇が高山に登って国見をした際、国中に「烟、発たず」と炊煙が立たないことから人民の困窮を知り、3年間課役を免除した記事がみられる。自らの住む宮殿の破損も修理せず倹約を重ねた結果、のちに人民の家から豊かな炊煙が立ちのぼるようになり、課役にも苦しまなかったとある。紀も同様の記事を収録しており、2書ともに仁徳天皇を「聖帝」と讃えている。 |
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