テキスト内容 | 人から人へ語り伝える。ひとまとまりの事柄を末永く語り伝える。単に「語る」と違うのは、末永く語り継ぎ、記憶にとどめるべき特別な事柄に属する。万葉集には「天地の 分れし時ゆ 神さびて 高く貴き 駿河なる 富士の高嶺を…(中略)…白雲も い行きはばかり 時じくぞ 雪は降りける 語り継ぎ 言い継ぎ行かむ」(3-318)とある。神代から神性を持ち、その霊性によって白雲も近づこうとせず、時の別なく雪の降る富士山に対して「語り継ぎ」と歌っている。「神代より 言ひ伝て来らく そらみつ 大和の国は 皇神の 厳しき国 言霊の 幸はふ国と 語り継ぎ 言ひ継がひけり」(5-894)、「八千鉾の 神の御代より…(中略)…見る人ごとに 語り継ぎ しのひけらしき 百代経て しのはえ行かむ」(6-1065)など、神性・霊性のあるものについて歌われる。古い形で、それに引き続いて、不思議なもの、高貴なものにも霊性を認めるようになった。5-894の「言霊の」とあるように、言葉そのもの、あるいは語り継ぐことそのものに霊性を認めたと考えられる。「み吉野の 滝の白波 知らねども 語りし継げば 古思ほゆ」(3-313)のように語り継いできたことによって知らないことも思われるのは、やはり不思議なことで、そこに言霊への意識がある。「あしひきの 山橘の 色に出でよ 語らひ継ぎて 逢ふこともあらむ」(4-669)、「語り継ぎ 偲ひ継ぎける 処女らが 奥つ城所 我さへに 見れば悲しも 古思へば」(9-1801)、「語り継ぐ からにもここだ 恋しきを」(9-1803)、「里人も 語り継ぐがね よしゑやし 恋ひても死なむ 誰が名ならめや」(12-2873)、「鳴くほととぎす 古ゆ 語り継ぎつる うぐひすの 現し真子かも」(19-4166)など、その例である。「後の世の 語り継ぐべく 名を立つべしも」(19-4164)や19-4165の「名立つ」も言霊の力によって語り継ぐもので、浮き名がたつことも言霊の力によると恐れた。 |
---|