テキスト内容 | ①花などを用いた頭髪の飾り。名詞形。②花などを手に取り頭に挿し飾りとすること。動詞形。①はカミサシ(髪挿し)かカザリ(飾り)の転か不明。「彦星の頭刺玉(かざしのたま)の」(10-1686)とあり、これは頭に挿した飾り玉で、頭髪に固定させたもの。また「頭刺不插」(8-1559)は「カザシにササズ」で、カザシは挿すものだというから、頭髪に挿した飾りであることが知られる。万葉集の古歌謡には神南備の清い御田屋の、垣内田の池の堤に立つ齋槻の紅葉を手折り、公(きみ)の「頭刺」として持って行くと歌われ、これは恋歌ではなく巫女が神(公)の頭刺として用意したものであり、カザシは古く神を招くものであった。柿本人麻呂の吉野讃歌には天皇が国見をすると、山の神が御調として春は花を挿頭し持ち、秋は黄葉を頭刺すのだという(1-38)。神による天皇への奉仕が詠まれているが、これも本来は神祭における神迎えの頭刺であったと思われる。柿本人麻呂の明日香皇女挽歌には、皇女が生前に春が来ると花を折り挿頭し、秋が来ると黄葉を挿頭したという(2-196)。挽歌に詠まれることから見ると、カザシの生命力(期待)と死(絶望)との対比が見られる。②は①と重なりながら風流の遊びへと展開したカザシである。大宰府の梅花の宴では、「梅の花今盛りなり思ふどち加射之にしてな今盛りなり」(5-820)、「梅を加射之弖楽しく飲まめ」(5-833)のように、梅の花をカザシとして楽しく遊ぶことが歌われている。さらに、桜の花を詠んだ歌には「嬢子らが 挿頭のために 遊士が 蘰のためと」(8-1429)と、桜の花は少女らがカザシとし、風流の男らが蘰(かづら)にするのだという。蔓性の植物を〈カヅラ〉といい、それを輪にして頭に被るのを〈カヅラク〉という。あるいは、神祭に巫女が蔓性の植物を被ったので、蔓性植物をカヅラといったか。持統紀の天武殯宮に「花縵」を奉り、これを「御蔭」というとある。また秋の稲を蘰にして贈ったという例(8-1624)は、季節の習俗と考えられ、稲の呪力を身に付着させる信仰的な行為が残存している。カザシとされた植物は、梅・桜・紅葉・萩・瞿麦・柳・保与・藤・山吹といった花木類である。これらの植物には生命信仰が見られるが、むしろ嬢子や遊士らが風流を楽しむための花木として選択されたものであり、これらには時代や個人の好尚が反映していると思われる。 |
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