テキスト内容 | 年取った男。オミナ(老女)の対。万葉集を見ると、まず竹取(たけとり)の翁(おきな)が、美しい九人の乙女達にからかわれて、過去の自分の美貌を誇りつつ、いずれ老いる乙女達をたしなめる内容の歌3首(16-3791~3793)を詠んでいる。また17-4011では、飼っていた鷹を逃がしてしまった翁(おきな)を「狂れたる醜つ翁(愚かで間抜けな爺)」と詠んでいる。このように、翁(おきな)については老いることによる衰えという負の面が指摘できるが、一方で知性や神聖性という正の面も指摘できる。例えば、竹取の翁の優れた歌に対し、9人の乙女達は今までの態度を反省し、翁に靡き依る意志を示した歌を返している。記の景行条では、御火焼(みひたき)の老人(おきな)が倭建命(やまとたけるのみこと)の歌に即興で続けて見事に歌を作った功績で、東国の国造に任じられている。紀の皇極3年6月条では、巫覡(かんなぎ)達の分かりにくい神託について、老人(おきな)達が時勢の変化する前兆であると予言している。紀の神代条では、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)を海宮(わたつみのみや)へ導く神が長老(おきな)の塩土老翁(しおつちのおじ)とされているが、この神は海宮への道をよく知る神であった。折口信夫「翁の発生」『全集2』によれば、日本には国家以前から、常世神、つまり常世国(不老不死の国)から来る寿命の長い人の信仰があったという。 |
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