テキスト内容 | 16-3811、16-3812、宇良敝14-3374、16-3694。卜占による吉凶判断にあずかる人。卜者。律令制の神祇官下の専門職で、卜兆に携わった。万葉集16-3811に「卜部座せ 亀もな焼きそ」とあり、亀卜が行われていることが知られる。14-3374は「武蔵野に うらへ象灼(かたや)き」とあるから、骨卜を示すか。亀卜は、すでに殷代にも行われ、多く腹側の甲羅を用いて(出土例及び『対馬亀卜伝』などの資料によれば、背甲を使わないわけではないようで、特にウミガメの場合は背甲の可能性が高いという)、形を整えた上で、裏側に楕円形のくぼみを複数作り、そのくぼみの横に擂り鉢状の穴を掘り(鑽鑿、日本ではこのくぼみを町という。穴は事前に掘っただけではなく焼いたためにできたものもある)、その穴に燃え木を押しつけて急激に熱を加えると甲羅の表面に線状のひび割れができる。そのひび割れに神意が示されるというものであったようである。卜という字もこのひび割れの形に由来するという。獣骨を用いる場合は、牛の肩胛骨が使われることが多いが、鹿を用いたり、珍しい例では鹿角や人の頭骨を用いた例などもあるという。占う内容(貞辞)、それに対する判断(占辞)や実際の結果(験辞)などを刻んだ文字を亀甲獣骨文字(甲骨文)と称し、河南省安陽県の殷墟をはじめとする殷代、周代の卜骨の発見が初期の漢字の歴史を考える重要な資料になった。日本には古墳時代に伝わったという。中国では、淡水産の亀が用いられたが、日本ではウミガメが用いられるようになり、出土例の中にはイルカや猪などを用いた例もあるという。焼灼には火持ちのよい木が使われるが、日本では、神代記にいう「波波迦」、一般的には桜の類が用いられる。(参考文献 東アジア恠異学会編『亀卜―歴史の地層に秘められたうらないの技をほりおこす』臨川書店)『延喜式』臨時祭宮主卜部条に、伊豆・壱岐・対馬から技術に優れた者を選んだとされ、亀甲の加工などかなり特別の技術が必要であったようである。対馬の亀卜について今に岩佐家が無形民俗文化財に指定されている。16-3694では「壱岐の海人の 上手(ほつて)の卜部を 象灼きて」とあって、その技術の巧拙に着目している。16-3811、16-3812も、14-3374も夕占のような私的な占いとは区別し、職業的な公的占いとしていると考えられる。『新撰亀相記』は天長7年(偽書説がある)に成立したとされる卜部家の伝承や亀卜の方法を記述した書。(参考文献 工藤浩『新撰亀相記の基礎的研究―古事記に依拠した最古の亀卜書』日本エディタースクール出版部) |
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