テキスト内容 | 尊い御手。万葉集に1例のみ。6-973に「天皇朕(すめらわれ) 珍(うづ)の御手(みて)もち かき撫でそ ねぎたまふ(天皇であるわたしは、尊い御手で節度使の卿らの髪を撫でていたわってやろう)」とあり、天皇の自敬表現として用いられている。この歌は、732(天平4)年に藤原房前(ふじわらのふささき)、多治比県守(たじひのあがたもり)、藤原宇合(うまかい)が節度使(地方監察官)として派遣されたときに、聖武天皇(もしくは元正天皇)が餞(はなむけ)の歌として与えたものである。歌中の「かき撫で」は成功や無事を祈る呪術で、防人歌(20-4346)にも、父母が頭を撫でて無事であれと言ってくれた言葉が忘れられないとある。天皇の「珍(うづ)の御手(みて)」によってそれが行われることで、無事なる帰還が強く予祝されるのである。ちなみにウズは高貴、珍貴なもの。紀の神代第五段に「珍の子」の珍をウヅと訓むよう指示する注がある。この珍の子は、イザナキが三貴子を誕生させる際の発言の「天下を統治すべき尊貴な子(珍の子)」として出てくる。また『延喜式』祝詞(祈年祭)にも「皇御孫(すめみま)の命のうづの御帛(みてぐら)」とある。ウズは皇祖神もしくは天皇に関わる言葉として出てくる。 |
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