テキスト内容 | 万葉集には4例あるが、そのうち3例は①「祈(うけ)ひて寝(ぬ)れど夢(いめ)に見え来ぬ」(4-767)②「後も逢はむと夢のみをうけひ渡りて」(11-2479)③「夢にも見えずうけひて寝れど」(11-2589)とうたわれて、相手に会えるように「うけひ」を行った結果は夢に相手が現れる(現れない)というかたちで表現されている。残る1例は、「妹に逢はむとうけひつるかも」(11-2433)とうたわれ、夢がうたわれないものの、妹に逢いたいと神に祈る行為としての「うけひ」がみとめられる。ただし、「うけひ」は、祈ると異なり、「夢」などにその結果が現れることを期待する行為でもあり、それが夢と結びついて「夢占」とも結びつく行為といえる。記紀の伝承では、スサノオが自らの清き心を証明するために「うけひ」をしてアマテラスとともに子供を生み、生まれた子によって「うけひ」の判断を行っている。オオヤマツミはニニギに「うけひ」をして二人の娘を献じるが、みにくいという理由で姉をかえしたので、「うけひ」の結果通りに歴代の天皇の寿命が長くなくなったと伝える(記)。垂仁天皇の子ホムチワケは、言葉を発することができなかったが、それを憂いた天皇の夢に出雲大神を祀ることが告げられた。それを確かめるために曙立(あけたつ)の王に命じて「うけひ」をさせた。曙立は鷺巣の池の木に住む鷺に「うけひ落ちよ」「うけひ生きよ」と命じたらその通りになり、樫の木を「うけひ」枯らし、「うけひ」生かしたと記されている(記)。香坂(かごさか)の王と忍熊(おしくま)の王の反逆の物語(仲哀記・神功皇后前紀)には、反逆の正否を知るために「うけひ」狩りをしたことが伝わる。こうした事例から「うけひ」とは、「うけひ」前に相反する二つのことを定め、そのいずれになるかによって神意を知る卜占的性格が強いものとみることができる。土橋寛は、神意を知るための方法ではなく、「真実」を知るための卜占の方法、または誓約を「真実」なものとするために実修された言語呪術であったとする。内田賢徳は、AならばB、Aでない(A’)ならばBでない(B’)という肯定と否定は矛盾関係にあり、二つの仮言的判断のうち、どちらが成立するかを知ろうとすることに基本形式があったとする。土橋寛「ウケヒ考」『日本古代論集』(笠間書院)。内田賢徳「ウケヒの論理とその周辺―語彙論的考察―」『萬葉』128。 |
---|