テキスト内容 | 山の枕詞。山と関連する語「尾」「峰」などの枕詞ともなるが、語義やかかり方は未詳。他に、「岩根」(3-414)、「木の間」(8-495)、「あらし」(11-2679)、「をてもこのも」(17-4011)にかかる例がある。「岩根」、「木の間」は、山に関連する語であり、「あらし」は山から吹き下ろす風、「をてもこのも」は山のあちらこちら、と理解できるので、山にかかる枕詞として「あしひきの」が定着し、慣用化されて、山の意味を内包する語として成立したと考えられる。一字一音で記された例(「阿志比紀」(允恭記など)や「足日木」(1-107など)の表記は、乙類仮名であり、「足引」(4-580)「足疾」(4-670)「足病」(7-1262)「足曳」(10-2323)の表記は、甲類仮名であり、甲類乙類の仮名が混同されている。甲類仮名による表記は、記紀や万葉初期の歌には、用いられておらず、柿本人麻呂歌集以降にしか表れていない。人麻呂は新たな枕詞を創作したり、従来の枕詞に新たな表記を用い枕詞の再解釈を行った例もあるので、原義が既に不明になった「あしひきの」の語も、新たな解釈が行われ、表意的な「足引」「足疾」などの用字が選択されたのではないか。以上のことから語義理解は困難である。代表的なものとして、①山の裾を長く引きずる意、②足を引きずりながら山を登る意、③『医心方』に「脚気攀(あしなへ)不能行」を一つの根拠として足の病の意の掛詞、などがある。いずれも「あしひきの」の「あし」を「足」と解釈しているが、平安時代のアクセントからは、「葦」と理解すべきとの指摘もある。万葉初期では、「き」が「木」と表記される例もあり、その表記には、植物のイメージがあるかも知れない。「あし」が「葦」と重なるのは、石川郎女が大伴田主に贈った歌(2-128)で、足の悪い田主を「葦の末の足ひく我が背」と、足をひきずる様子が柔らかく腰のない葦の葉に喩えられていることが挙げられる。 |
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