photo: KIOKU Keizo

オラン・ブサール・シリーズ カイン・パンジャンと不機嫌なケパラ

作家名(日)イー・イラン
作家名(英)YEE I-Lann
制作年2010
素材・技法酸性染料によるダイレクト・デジタル・ミマキ・インクジェット捺染、含金属型反応染料レマゾールを用いたチャンチンによるバティック、100%絹綾織布
サイズH106.7 × W234cm
著作権表示© Yee I-Lann
収蔵年2012
受入方法購入
解説1971年コタキナバル(マレーシア)生まれ、クアラルンプール在住。

ニュージーランド人の母とシノ・カダザン(マレーシア・サバ州のカダザン族と中国系との混血児)の父との間に生まれる。高校入学から9年間をオーストラリアのアデレードで過ごす。複数の民族にまたがる自身のルーツに迫りながら、見る者に東南アジアの豊潤で多様性に富んだ歴史を想像させる、詩情豊かな写真表現を生み出している。マレーシアにおける歴史、政治、経済をテーマにしたイーの作品は、伝統と同時代性の相互作用が生み出す社会の混乱や紛争を明るみに出し、単一民族国家によって決定づけられる現代の権力構造を、今一度見つめ直そうとするのである。

イーは人間を権力構造における権力者=オラン・ブサールと見なし、インドネシアやマレーシアの伝統的なろうけつ染めの技法を用いたバティックアートを媒体にその姿を描く。オラン・ブサールとは直訳すると「大きな人」の意で、植民地時代以前より東南アジアの島々を支配した支配者階級のメンバーのことである。他にもスルタン(君主)を象徴する鮮やかな黄色の布に描かれたベンガル菩提樹、ミモザ、食虫植物がモチーフとして登場するが、いずれも擬人化され、人間と権力の関係の本質をよく表している。これらの作品は、東南アジアの因襲的な権力構造や人々の富や権力との関わり方に、もっと批判的なまなざしを向ける必要があることに気づかせてくれる。この「オラン・ブサール」シリーズのひとつである《私椋船の帝国と彼らの勇ましい冒険》は、東南アジアの海を縦横無尽に渡った様々な人々の歴史や文化に着想を得たものである。イーは史実をもとにフィクションを交え、新しい物語を生み出している。そして目に見えない国境を自在に越えた人々への共感を示すことで、私たちがなぜ今の私たちとして存在するのかを問うているのである。

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